朱雀野にて

一次創作を書き散らしたりお知らせしたり

8/20 COMITIA121お品書き

こんばんは、島原倅です。

気がついたらもう今週末がコミティアでした。お品書きとサンプルのご案内です。

 

・お品書き

www.pixiv.net

今回委託させていただくサークル「宵々屋」のサークル主・ひゐちゃんがあげてくれました。

 

・サンプル

www.pixiv.net

 

以前ブログに上げたものも含めて、収録全6編の冒頭サンプルを掲載しています。

エロとかグロとかちょいちょいありますが、ご興味ございましたら是非お手に取っていただけると活力になります。

 

それでは、当日はどうぞよろしくお願いいたします!

8/20 COMITIA121、委託参加します

こんばんは。島原倅です。

部屋に冷房のなかった学生時代はバンバン夏バテして不健康なスリムボディを獲得していたものですが、自室にクーラーが設えられてからというもの、すっかり夏バテしなくなったのでぶくぶく太っています。運動しないくせに三食食べるからこうなる

文明の利器に頼り過ぎて、ここしばらくは粘るような汗も寝苦しい夜も忘れておりますが……皆さまはいかがお過ごしでしょうか。熱中症にはどうぞ気を付けてくださいね。

 

そんな夏の盛りでございますが、もう少し先の8/20(日)、東京ビッグサイトにて開催されるコミティア121に委託の形で参加させていただきます。

かれこれ8年近い付き合いになる友人・ひいちゃんのスペースにお邪魔して、学生時代の作品を加筆修正した短編集を頒布いたします。コミティアは買い手としても行ったことがないのでドキドキです。

 

スペース:ふ02b「宵々屋

 

にてお待ち申し上げております。ぜひ遊びにいらしてください。

頒布物のサンプルなどは、また折を見て告知いたしますね。何卒よろしくお願いいたします。

 

また、サークル名刺なるものも作ってみました。

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何でもないような台詞を入れてみたりして。

こちらも頒布物とともにお配りいたしますので、よろしければもらってやってくださいね。

 

それでは、かしこかしこ

きみのトルソー

8/20のコミティアにて委託する短編集に収録する作品です。

 

***

 

 

 肌色の肉塊が蠢動している。硬そうな背中が芸のない前後運動を繰り返して、その度に押し潰されそうな華奢な肢体が跳ねて喘ぎ声を上げる。中途半端に開かれた部屋のドアの隙間から覗くその光景に、私はただ立ち尽くすほかに術がなかった。

 

 

 

「やっと見つけた! 私の理想型!」

 榎本くるみにそう声をかけられると同時に抱きつかれたのは、服飾の専門学校に入学して三ヶ月ほど過ぎた、梅雨明け頃のことだった。

この進路は手先の器用さ以外に取り柄のない私に、「芸は身を助けるって言うでしょう」と母が勧めた進路だ。勉強にもスポーツにも秀でた快活な弟に比べて、私はどれをとっても中途半端な子供だった。物音も立てずに、いつも一人で父方の祖母から習った編み物をしている、ぱっとしない子供。優秀な弟ばかり可愛がられるのも当然のことで、同居していた祖母が亡くなってからは、さらに私の居場所は狭くなった。だから母としても、進学を理由に私を家から追い出したかったのだと思う。

私は別段逆らうこともなく、両親が進める手続きの通りに上京して進学した。住む場所だけは自分で決めなければならなかったけれど、学校から近いことだけを理由に、適当な物件の角部屋に決めた。入れ替わりで隣人が学校を卒業して引っ越したからご近所付き合いもなかったけれど、人がいようといまいと私には関係ない。誰の迷惑にもならないよう、隅で黙って裁縫をしているだけ。そうして学校でも一人ぼっちのまま、繰り返し毎日を浪費していた頃だった。

くるみは新入生の代表挨拶にも選ばれた優秀な生徒だった。基礎クラスが同じで彼女のことはよく見かけていたけれど、私の弟のような、勝ち組の人間だと思っていた。小さな顔の中に、長い睫毛に縁取られた大きな瞳と高い鼻、そして柔らかそうな厚い唇が行儀よく並んでいる。百五○センチ前半辺りの小柄な身体に、フリルやレースをたっぷりあしらったフェミニンな服がよく似合っていた。課題とは別に私服も自作しているらしく、自分に似合うファッションを把握している聡い人だという印象もあった。いつも男女を問わない人だかりの中心にいて、皆から愛される憧れの的。私が一方的に羨望している以外に、関わることなどあり得ないはずだった。

動揺する私から離れた彼女は、「あなたの身体に一目惚れしたの」と言う。いやらしい意味ではなくて、モデルやマネキンとして。確かに私は百七十センチを二センチほど上回る長身で痩せ型だけれど、女らしい柔らかさが欠けた貧相な身体はコンプレックスでしかない。しかしくるみは「こんなコルセットしてるみたいなくびれの人、初めて生で見た!」と、抉れたような腹回りを一番に気に入ってくれたらしいのだ。彼女は艶やかな唇で弧を描いて、

「私の専属モデルになってよ」

と私を挑発的な瞳で射抜いた。

どうせ着せるなら人間の方が服は生きる。彼女の言い分は一理あるような気もしたけれど、学内で早くも名を轟かせている才媛のパートナーになるなんて、と気後れしたのが本音だった。デザイナーになりたいとか、アパレルの仕事に就きたいとか、そんな明確な夢は私にはない。家から追い出されるまま、誰にも必要とされないまま流れ着いたのだ。逡巡する私からなおも視線を逸らさないくるみは、ついぞとどめの一言で私の心臓をわし掴む。

「私が欲しがってる、だからあなたは私のトルソーになる。……それで何か都合が悪いことでもあるの? ねえ? 河合涼子さん」

 大きな瞳がきらきらと輝きを放ちながら私を映した。――それまでの人生で、誰かがこんなにも熱烈に私を必要としたことがあっただろうか?

いずれグループ制作なども始まるから、少人数でもチームを作る必要はあって。だから彼女の申し出はこれ以上ない奇跡で。無垢な暴君の命令に、気がつけば私は首を縦に振っていた。

 

 

 

 あっさり私の家に上がり込んで「ルームシェア」を始めたくるみは、とにかく無邪気な王様だった。我儘でマイペースに人を振り回しながら、しかしそこに悪意がなくて憎めない。庇護欲を巧みにくすぐる、魔性めいた女の子。周りに人が集まるのも当然だろう、と納得した。何しろ私自身が、彼女の魅力に囚われてしまっていたのだから。

くるみはロリータチックなワンピースを作っては、私に何度も試着させて着心地や色合いの感想を求めた。面長の顔に一重のつり目と薄い唇を揃えた、男にも間違われがちな私には到底似合わない服だ。そんな女の意見など、とは思うけれど、くるみにまっすぐ見つめられると、自白剤でも飲まされたかのように彼女の才能を讃えてしまう。美しい女が満足げにふふん、と鼻を鳴らして笑ってみせるその顔が、いつの間にかたまらなく好きになってしまっていたのだ。私に似合うかはさておき、彼女のセンスも才能も一級品であるのは明らかで、非の打ち所など私には見つけられなかった。

「もし涼子に似合わなかったとしても、涼子の体で服が映えればそれでいいの。涼子は私専用のトルソーなんだもの、ね?」

腰にまとわりつかれて猫撫で声で囁かれる度、私は酷い幸福感に満たされた。

トルソー。首も、腕も、脚もない彫像。

くるみにとって私は、その程度の存在だ。胴体さえ彼女のお眼鏡に適うなら、私である必要はない。それでもくるみは私を見つけ出し、必要だと言ってくれた。たとえ身体の一部分でも必要としてもらえるなら、彼女の傲慢で不遜な独占欲を一身に受けていられるなら、それだけで他のことはどうでもよかったのだ。

くるみの新作は課題発表の度に学内で高評価を得たし、文化祭のファッションコンテストでは最優秀賞も獲得した。皆から称えられるその服が、私の身体を利用して作られたのだという事実だけで、卒倒してしまいそうなほど気持ちがよかった。

 

 

 

彼女と出会ってからもう一年が経つ。輪から外れた人間からも遠巻きに熱い視線を送られる人気者……のパートナーになったからには、少なからず私にも影響があった。気付けば私に声をかけてくる人間も増えて、新作のモデルを頼まれることもしばしばあった。多少顔が地味でもくるみのお墨付きならば、わざわざモデル専攻の学科生に声をかけるより楽だと思われたのだろう。その度にくるみが面白くなさそうな顔をするのがたまらなくて、わざとその日の帰りを遅らせることも次第に増えていった。

くるみは後から帰ってくる私に気を遣っているのか、先に帰っても鍵を開けたままでいる。そのまますんなりと家に入って、くるみに向かってただいまと言う。そして「やっぱりくるみが一番だよ」と微笑んで、他の人間から盗んだ技術を彼女に伝える。それが、ここ最近の流れになっていたものだ。私の話を聞き流しているように見せて、くるみが陰でそれを会得しようと躍起になっていることを知っていた。彼女はあくまで自分がトップに立つためにやっているのだろうけれど、私にはそれが所有物を取られそうになっている焦燥のように思えて、勝手に喜んでいた記憶がある。

……だから、今日も他人の新作の試着を手伝って、いつものように遅くに帰った。そして、くるみにただいまを言うはずだったのだ。普段ならばしっかり閉じられている戸が中途半端に開いているのを怪訝に思って、私はそっと息を潜めて部屋の中を覗き込んだ。家の鍵が開いているのだからくるみは室内にいるのだろうと、たいした考えもなしに。

「助けて、やだっ、やだぁっ! あ、っ……!」

 どこかで見た覚えのある小太りの男が、くるみに跨がって腰を振っている。小さくて華奢な身体を何度も暴れさせながら泣き喚く彼女の右頬は赤黒く腫れ上がっていて、口の端に滲む血から、抵抗して殴られたのだと察せられた。

私の帰りを待って鍵を開けていたばかりに、妙な男に家まで尾行されたくるみは、こうして犯されているのだろうか。思い出した、彼は一年の時の基礎クラスで、私の隣席に座っていた目立たない男子だ。学内でもよく物陰から、くるみのことを追い回して眺めていたように思う。もっとも当の本人は彼の存在になど気付いていなかったようだから、私もわざわざ教えるようなこともしなかった。それがまさか学校の敷地内だけでは飽き足らず、家まで来た挙句に乗り込んでくるとは思ってもいなかったけれど。

助けなければ! という焦燥が胸の鼓動を打ち鳴らすのに、私の頭は状況を確かめては推論を弾き出すばかりだ。足はフローリングから一歩も動かせないし、喉は異常なまでに乾いて声も出せない。その場に立ち尽くして、醜い男の肥えた背中が、ひたすら前後に揺れるのを見ていた。暴かれたくるみの色、無遠慮な凶器が入り込んだ哀れな箇所が網膜に焼きつく。

自信満々に微笑むくるみ。猫撫で声で甘えるくるみ。私が他人の作品に協力するのを、不愉快そうにしていたくるみ。出会い、共同生活を始めてからの一年で、私はさまざまな彼女の顔を見てきたはずだ。けれどあんな、苦痛と絶望にまみれて高い声で鳴く彼女は知らない。

「いや、ッ! 涼子っ、いたい、助けて……! 涼子!! りょうこ……っ、」

彼女の唇が、咽喉が、必死に私の名前を叫んだ瞬間。それまでこわばって固まっていた身体から、どっと力が抜けた。その場にへたり込んで、それでも私は、くるみが犯されている場面から目を離さない。

これまでたくさんの友達や信者を従えてカリスマ性を誇っていたくるみが、ここぞという時に私を呼んだのだ。私の名前に縋って、ないた。頭蓋を満たしたのは、――途方もない悦楽。

 

 あの無垢な暴君が、持ち物にすぎないトルソー(わたし)を心底求めている!

 

ジーンズをくつろげて下着の中に手を突っ込むと、そこはぬらりと熱く湿っていた。入浴時以外には滅多に触れない部分を指でなぞりながら、目の前で男の凶器に蹂躙されているくるみの秘所との違いを探すようにまさぐる。はしたない粘性の音を奏でたのは、くるみだったのか私だったのか。それさえもわからないまま、私はくるみの痛々しい痴態に没頭した。

トルソー。首も、腕も、脚もない彫像。くるみにとって、私はその程度の存在だ。そのはずだった。それが今、腕が生え、脚が生え、そして首は持ち主の方を向いて、自分自身の意志で戯れに興じている。

くるみのみっともない顔を、所有物の私に助けを乞う声を。ずっと知りたかったのかも知れない。求められる喜びは、誰かに必要とされた幸福は、私に浅ましい独占欲を植えつけた。私の胴体ならばいくらでも、求められるままに捧げ続ける。だからその代わりに、私はくるみのすべてが見たい。そしてそのひとつひとつの表情も言葉も、吐息でさえ、誰かに譲ることなどするものか。途端に今この一瞬でさえもう惜しくなる。

この刹那すら、くるみを汚い脂肪の塊に渡しておくのが許せなくなって。

びくりと内股が震えて、私はかはっ、と掠れた笑い声を漏らした。妙な熱に浮かされた心地のまま、携帯している裁縫セットの断ち切りばさみをトートバッグから取り出す。存外すぐに出てきたそれは、ふらふら立ち上がった私の右手にずっしりこびりついた感覚を与えた。自分の分泌液で汚れた指が、私の唯一の取り柄のための道具に絡む。普段使う時とは違う手つきで握って、私はようやく足を前に蹴り出すことができた。乱暴に蹴開かれたドアに振り向いた男の顔面に、迷いなくはさみを突き立てる。男の悲鳴と、女の悲鳴。野太い方ばかりが耳障りだという冷静な思考だけが端にあって、身体は作業のように金属を肉に刺して抜いてを繰り返す。暴れていた男が黙ったところで、ようやくその脂肪の塊を蹴飛ばしてくるみの上から退けた。

「遅くなってごめんね。今日も手伝いに行ってたんだけど、やっぱりくるみが一番だったよ。それでね、」

くるみは色白の顔をさらに青褪めさせて、ベッドに転がった男と私を交互に見た。長い睫毛も唇も、身体全体もがたがたと大きく震えている。その顔は初めてだ。血のついたはさみをカーペットに投げ捨てて抱き締めると、くるみの震えはますます酷くなったようだった。それまでずっと言いなりでいた持ち物であるトルソーが、いきなり動き出したことに驚いているのかもしれない。

「心配しないでいいよ、くるみ……」

くるみの持ち物になったおかげで、私は命を与えられ、能動的に動く人間になれた。こんな感情を知った今となっては、くるみから離れることなどできそうにない。これは生涯をかけて報いるべき恩だ。だからこれからも、ずっと彼女の傍にあり続けよう。その誓いを口にしようと思ったら、途端に興奮して吐息が混じった。

「私は、永遠にきみのトルソーだから」

 

ハネムーンの夜に月は出ていない

昔のブログからお引っ越し。

Twitterで話題になっていたタグ「#男女心中道行電車100字書き出し」というものに便乗した際の文を使って、一本上げてみました。リハビリがてらに。

 

***

 

 真冬の海に向かっている。降車駅が近付くにつれて客足は減り、会話のない私たちだけがそこに残されていた。かたん、かたん。凍てつくしじまの中で恋人は揺れる。片道切符代わりのPASMOは、残金三十二円である。持っていたところで何を買うあてもないから、と捨ててきたおかげで、財布の中にも折り目だらけの千円一枚しか入っていない。駅に着いて乗り越し金を払ったら、この電子カードも長財布も用済みだ。それだけではない。今私が履いているキャメル色のムートンブーツも、砂浜に降り立ったら置き去りにされる。今隣で揺られている男が、付き合ってから初めて迎えた私の誕生日にくれたもの。靴の造りが大きいのか少しだけ緩いこのブーツを、私は毎年冬になると必ず履いていた。大切に扱っているつもりでもう五年、じっと俯いてみると、それは随分とくたびれて汚れている。

「こわい?」

 静寂に爪をあえかに立てたような声がして、私は思い出に浸る意識をゆっくりと浮上させてそちらに顔を向けた。隣に座っている青年が、蝋人形のような無機質さのまま私を静かに見据えている。私の恋人。付き合って五年目になる私の恋人。その眼差しにも声音にも、一切の感情が滲んでいないのがありありと分かる。たくさんの日々を共有してきたというのに、彼が何を思って、何を考えて私に声をかけたのかは分からなかった。私に対する気遣いであるとか、心配であるとか、愛であるとか。どうかそういうものでなければいいな、と思うことしか、今の私には出来ないのだ。あわよくばそれが、私に対する呪いであってほしかった。

「怖くないよ」

 私は疲弊して引き攣る目尻を無理矢理下げて、にへら、と力のない笑みを浮かべる。きっとさぞ不気味な形相になっているのだろうと自分でも分かって、すぐにまた顔を下げて彼の眼差しから逃げた。彼は私の笑顔が好きである。その男は初めて出会った時から私の笑顔を誉めそやし、告白の際にさえ君の笑顔が大好きだと告げたほどだった。けれど今の私はきっともう、あなたの心底愛した顔では笑えない。死を前にしてなお無邪気にきらきら笑えていられるほど、私は完成されてもいなければ強気に振る舞えもしなかった。これから一緒に地獄へ落ちるというのに、今さら愛想を尽かされるのも味気ない。

 私たちは、死に場所を目指して夜に揺れている。

 何ということはない、ありふれた悲劇だ。私も彼も夢を追って京へ上り、そこで容易く現実に叩きのめされて、それでも互いを励まし慰め合いながら生きて、息をして、そして、それが出来なくなっただけ。金があることは幸福に対して絶対ではないけれど、最低限の条件であると知った。金がないことはそれだけで不幸だ。欲しいものが買えないとか、それ以前に、夢を叶えたい私たちから生きる術さえ奪うのだから。

 彼が愛した私はもうその通りに笑えなくなったし、私が愛した彼はもう出会った頃の情熱を燃やし尽くしてしまった。笑いもせず、抑揚もない声で、怖い? と問いかける彼に、私が心底惚れていた面影はもうどこにもない。それでも私はまだ、彼のことを愛しいと思っているのだった。苦しい時に抱き締めてくれた、私が必要だと言ってくれた、私の必要に応えてくれた。もうそこに初々しいかつての恋愛感情はない。けれど離れようとするには、あまりに私たちは傷口を共有しすぎてしまった。そこはもう膿んで癒着して、切り離せないまま壊死してしまっている。

 夢を追うには老いすぎて、無為に生きるには若すぎた。

「……おれのために、」

「やめて」

 再び口を開こうとした男を、私は心からの怒りを込めて牽制した。彼の口ぶりから何を言おうとしたか、それとなく察しがついたからだ。そして彼が次に言う言葉も、私にはもう分かってしまっている。

「新婚旅行だよ、今。寂しくなること言わないで」

 彼はきっと、私を切り捨てることが出来るのだろう。私をまだ愛しているから、私だけを生かすことを提案出来てしまうのだろう。けれどそれを私は望まない。生かされて、あなたが一人で冷たく死んだことを背負う羽目になるのは絶対に嫌だ。もう生きてはいけない世界で、人ひとりの怨霊まで抱いていけるものか。ああ愛しい人、大好きな人。私はあなたに依存して、依存されることに悦んでいるのに。それでもあなたはまだ、私を眩しく愛そうとしてくれる。でももうそれはいらないのだ。私が欲しいのは、みっともない執着と呪いだけ。お前だけは俺を置いていかないよな、俺と一緒に死んでくれるよな。そうやって求めてほしいだけ。弱くて、ずるくて、ごめんなさい。死ぬ理由にさえあなたを巻き込んでいる。

 金の為に諸々人の道を外れた私たちは、今宵、どっぷり黒い海へと還る。そこは地獄に繋がっている。私たちは冥府に嫁入りして、あるいは婿入りして、終わらない祝言を挙げるのだろう。新婚旅行だ。終わらない蜜月が始まるのだ。彼が返事もなく俯いた時、ぷしゅうと電車のドアが開いた。私たちが目指していた海の匂いが、かすかに、寂れたホームにも届いている。私はよろよろ立ち上がった彼の隣を歩いて、車庫へ眠りにつくであろう電車からゆっくり降りた。

 薄汚れたムートンブーツが、自分の捨て置かれる場所の土をしんしんと踏む。

 

ブログをはじめました

徒然なるままにひぐらし、キーボードに向かっていたら肩こりがやばくなりすぎて整骨院で悶絶する羽目になりました。

 

島原倅(しまばらせがれ)と申します。成人済みの身体と小学五年生の心を持つ、低気圧で精神を病みやすい若輩者です。

一次創作の小説を書き、それを頒布するイベントに出たくて、この度はブログなどを始めてみました。これから短文を載せてみたり、イベント告知をしてみたり……いろいろ騒がしくなるかと思いますが、どうぞお付き合いいただければ幸いです。

 

とんこつラーメンが食べたい。